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大阪地方裁判所 昭和45年(ヨ)3057号 判決 1970年9月09日

芦屋市業平町六番三号 田中方

申請人 山口薫

右代理人弁護士 岡田義雄

同 北村義二

吹田市大字山田小川二九番地の一

被申請人 財団法人日本万国博覧会協会

右代表者理事 石坂泰三

右代理人弁護士 中村俊輔

同 中村宏

主文

被申請人は申請人が被申請人発行の従業員入場証を使用して日本万国博覧会々場に入場することを妨害してはならない。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一、一件記録によると次の事実が疎明される。

1、被申請人(以下、単に協会ともいう。)は昭和四五年三月一五日から同年九月一三日までの間、吹田市千里丘で日本万国博覧会を開催し、プリマハム株式会社、寿司屋「京樽」その他の企業をして会場内の一部で売店、飲食店等を営業させる旨の契約を締結して右博覧会に参加させているものであり、申請人は右期間中プリマハム株式会社に雇用され同社の経営する右博覧会場内の売店の販売員として勤務し、同社の申請に基づき協会から会場への従業員入場証を交付されて連日会場に入場しており、また同年四月一七日同社の前記売店従業員で組織するプリマ万博労働組合の委員長に就任するとともに、万博会場の全従業員を対象に組織された個人加盟の合同労組であるエキスポ綜合労働組合(以下、単にエキスポ労組という。)に加盟しその執行委員に就任しているものである。

2、申請人はエキスポ労組の執行委員として同年八月中旬「京樽」のストライキを指導し、確立したストライキ権に基づきピケや座り込みをなし、またトランジスターメガホンを使用し、横幕、組合旗、ビラ等を掲示し、集会演説をなし、シュプレヒコールをなすなどして気勢を上げるなどの争議行為を率先して行なった。

3、協会は申請人の右行為を以て警備監察に関する特別規則八条に所定の禁止行為に該当するとして同年八月三〇日申請人に対し同月三一日限り前記従業員入場証を失効させる旨の意思表示をなし、従業員の全通用門に申請人の入場証が失効した旨の掲示を貼り出し、申請人が右入場証を使用して会場に入場することを妨害している。

4、申請人は未だプリマハム株式会社の従業員であるにもかかわらず、協会の右処置によって、その職場に入るためには一般の観客と同様八〇〇円の入場料を支払い、しかも午前九時にならないと入場できないこととなったため、右入場料八〇〇円と遅刻による減給分とを合算すると約半額の減収となるうえ、組合役員としての活動にも支障を来している。

二、右事実関係に基づき、申請人は被申請人が申請人に対してなした従業員入場証の失効の処置は申請人の正当な組合活動を妨害するものであり、また申請人の使用者をして不当労働行為を容易ならしめるものであって無効である旨主張するので判断する。もともと協会が特定の企業との間において右企業をして博覧会場の一部で営業させる旨の契約を締結して博覧会に参加させるときは、右企業の内部において労使関係が発生し、かつ右関係が発生する以上、これについて紛争の生ずる可能性も当然予想すべきものであるから、仮に右紛争が生じたとしても、これが労使双方の正当な権利の行使である限り、これによって生ずる多少の不利益は忍受すべきものである。もっとも協会は企業に対し博覧会場の一部を事業場として使用させているものの、これら事業場を包含した博覧会場の全体的統一的運営をなすものであるから、その一部である一事業場内の労使の紛争によって博覧会の全体的運営に著しい支障を生ずるものであれば、企業との間の契約を解除して労使関係を包含した企業全体を博覧会場から排除することは可能であるものと考えられるのであるが、企業との契約を存続しながら労働者の争議行為だけを捉えて博覧会の運営に支障を来すものとしてこれを防遏するため労働者に与えている権利を剥奪することは、労使間の紛争に介入し労働者の争議権に対して制約を加える結果をもたらすものにほかならないから、右は民法九〇条によって無効というべきである。申請人はエキスポ労組の組合員として「京樽」との間に争議を行なっていたものであるところ、協会は右争議行為を以て会場の運営に支障を来したものとして、右「京樽」については何らの措置をなすことなく、申請人に対してのみ、従業員入場証を以て会場に適宜入場し得べき権利を剥奪したものであるから、右行為は前記観点から無効というべきである。

三、してみると、申請人は未だ協会発行の従業員入場証を使用して博覧会場に入場する権利を有するものと一応認められるところ、被申請人はこれを否定してその妨害をするものであり、しかも右妨害によって申請人について回復し難い損害を生ずべきものと認められるので、本案判決の確定に至るまで右妨害の禁止を命じる必要があるものというべきである。そうだとすると、申請人の本件申請は正当であるから保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 高田政彦)

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